霧が育む根室の自然

根室では春から夏の終わりにかけて、毎日のように霧が出て、なかなか気温が上がりません。この霧は、太平洋上にできた高気圧から流れ込む暖かい空気が、根室沖を流れる寒流の冷たい海水面にぶつかり発生する海霧です。実はこの霧が根室に独特な生態系をもたらしています。このページではそんな霧によって育まれる、根室を特徴づける自然環境である高層湿原とそこに暮らす生物たちを紹介していきます。

霧の花咲灯台

高層湿原

高層湿原とは堆積した泥炭表面が周辺の水面より高く、川などから水分の供給を受けず、降水(雨、雪、霧)からの水分の供給だけによって成り立っています。北海道の他の地域や本州では高い山の上によくみられます。マット状に広がったミズゴケの上にコケモモ、ツルコケモモ、イソツツジなどのツツジ科の小さな樹木やヒメシャクナゲなど、いわゆる高山植物が繁茂します。根室では春から夏に発生する海霧によって、気温が低下し高い山と同じ気候条件になります。また、海霧は高層湿原にとって重要な水分も提供します。このような条件が揃い、根室では低地にありながらも高層湿原を多く見ることができます。

私たちに人間にとっては洗濯物が乾かなかったりと少し厄介者の霧ですが、根室の自然の多様さを育む重要な役割を果たしています。

高層湿原のミズゴケとツルコケモモ

高層湿原のミズゴケとツルコケモモ

高層湿原に生育するヒメワタスゲ

高層湿原に生育するヒメワタスゲ

高層湿原に生きる氷河期の遺存種

夏の海霧によって高い山と同じ気候条件になるねむろ。そんな根室では氷河期に広く分布し、繁栄していた生物が、気候が温暖になるに従い生息環境が縮小し、分布を狭め、高い山などに取り残された氷河期の『遺存種(レリック)』を平地にありながら多くみることができます。代表的な種を紹介していきましょう。

日本で落石岬にしか咲かないサカイツツジ

国内では根室の落石岬の高層湿原とそれに隣接するアカエゾマツ湿地林にのみ生育する氷河期の遺存種。落石岬以外の分布の南限はサハリンの北緯50度周辺の地域になります。5月中旬から6月中旬ごろに濃いピンク色の美しい花を咲かせます。でも学芸員のおすすめはサカイツツジのつぼみ。丸っこくて本当にかわいらしいです。日本でここにしか咲かない花。ぜひ見に行ってみてください。

サカイツツジの花のつぼみ

丸くてかわいいサカイツツジのつぼみ

サカイツツジの花

濃いピンクが美しいサカイツツジの花

高層湿原を舞う高山蝶・カラフトルリシジミ

カラフトルリシジミは国の天然記念物に指定されている青くて小さな蝶です。北海道では高山、亜高山に生息する高山蝶だと考えられていました。しかし1982年に根室市の行った調査で春国岱で発見されました。その後、根室半島全体で調査が行われ、高層湿原とそれに隣接するアカエゾマツ湿地林などで生息していることが明らかになりました。幼虫の食草は高層湿原に生育するコケモモ、ツルコケモモやガンコウランなどの植物で高層湿原と密接な関わりを持った蝶です。ちなみにこのカラフトルリシジミ、天然記念物に指定されているため採集は厳禁です。2016年には市内でこの蝶を不法に採集した蝶マニアが逮捕されるという事件も起こっています。

翅を広げたカラフトルリシジミ

翅を広げたカラフトルリシジミ

翅を閉じた状態のカラフトルリシジミ

幼虫の食草であるガンコウランにとまる

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更新日:2018年03月01日