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 むかし・・・、といっても今から約百二十年ぐらい前のお話です。

 ホニオイ(穂香、根室市街より西へ五キロメートルぐらいはなれたところ)の部落に、たいそう仲のよいアイヌのおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 そのころの根室地方は、冬になると毎日毎日吹雪が続いて、三日も四日も外へまったく出られないことがたびたびありました。海は流氷がはりつめ、冷たい北風が吹きあれます。その寒い中、アイヌはこの氷に穴をあけて釣り糸をたらし、コマイという魚を釣あげます。釣られたコマイは、氷の上でしばらくの間はピンピン動いていますが、そのうちにカチンカチンに凍ってしまいます。

 おじいさんとおばあさんはコマイをおかずにしたり、根室市街へもって行って売ったりして生活しておりました。

 おそい春が根室地方にもやってきました。穴にこもって冬眠していた熊も目をさまし、ノコノコ穴から出てきてアリの巣をみつけてアリとその卵を食べたり、谷地(やち・湿地)に芽を出したばかりの水バショウなどを食べて飢えをしのいだりしました。

 五月も末のある日のこと、思わぬ猛ふぶきが何日か続きました。吹雪の恐ろしさを、おじいさんとおばあさんはよく知っているので、じっと家の中にとじこもり、ふぶきがおさまるのを待ちました。

熊 やがて風もおだやかになり、太陽が朝から輝き、すばらしいお天気になりました。アイヌのおじいさんは久しぶりに一人で根室まで買物に出かけました。もちろん、おばあさんの注文もちゃんときいて出かけてました。

 おばあさんは炉の火を絶やさぬように気をつけ、火にあたりながらおじいさんの帰りを待っておりました。その炉には古びた大きいやかんがつるしてあり、お湯がチンチンと音をたててわいています。太陽は、雪の上にも家のすきまからも、キラキラ暖かい光をそそいでいます。

 おばあさんはチンチンわいているやかんのふたをとり、「おじいさんは今ごろどこかしら、雪で歩きにくくないかしら、わたしの頼んだものちゃんと買えたかしら」などと考えていました。

 その時です。戸口からガサガサとだれかが入ってくる音がします。おばあさんは「オヤ!おじいさんの帰りにしては少し早すぎますね」と思いつつ、「おじいさん?」と声をかけて戸口の方をみました。ウワー大変。二メートルもあろうかと思われるおきな熊が、のそり、のそり、と入ってくるではありませんか。おばあさんは、
「ワアー、ア・・・」
と大きな声をたてました。熊もその声に一瞬おどろき、立ち止りましたが、そろしい牙をむき出し、「ウオー」と一声高く立ち上がりました。そしておばあさんにむかってきました。
やかん

 おばあさんは生きた心地はありません。無我夢中で炉のまわりを逃げまわりました。熊は体が大きいので、小さい炉のまわりは思うようにまわれません。二、三度ぐるぐる追っていましたが、もどかしがって、一とびにおばあさんをめがけて、炉の向こうから、ウオーととびかかりました。

 おば あさんは、あまりのおそろしさに、その場で腰をぬかしてしまいました。一とびにおばあさんにとびかかろうとした熊は、左の前足をやかんの中に突っこんでしまいました。あのチンチンとお湯がわいていた古い大きなやかんの中にです。炉かぎからやかんははずれましたが、熊は大やけど。痛くて痛くてたまりません。「ワオー、ワオー」と悲鳴をあげ、ガッタラガッタラとやかんと靴をはいたまま、戸外へ逃げ出して行きました。

 おばあさんはほっとしましたが、腰をぬかしたままうごけません。ふるえながら、「なんとおそろしいこと、でも命が助かってよかった」と思いました。そうして、おじいさんの帰りを待ちました、そのころ、おじいさんは、おばあさんが熊におそわれたことなどまったく知らないで、久しぶりにおばあさんの好きなおみやげを沢山買ったので、おば あさんの喜ぶ顔を想像しながら帰ってきました。

 家の近くまでくると、雪の上に大きな熊の足あとがあり、それが家まで、てんてんと続いているのをみつけました。おじいさんは心臓が止まったかと思うくらい驚きました。さあ大へん、おばあさんはどうしただろう、うまく逃げられただろうか、熊につかまってへかつがれて山奥へ行ったのではないだろうか、それとも殺されてしまった・・・おじいさんは、いやなことばかり頭にうかびました。

 おじいさんが家の中にとびこむと、おばあさんが炉の向こうでプルプルふるえているのが見えました。

 「ああよかった、よかった。これも神様のお助けだ」おじいさんは、それはそれは喜びました。
おじいさんは、おばあさんから留守の時の出来事を残らず聞いて、村の人達を頼み、鉄砲や毒矢をもって熊の足あとをたどりながら追いかけました。
 熊は五百メートルぐらい奥の沢で、やかんの靴を脱ごうとしてもがいていました。なかなか脱げずにもたついているところを、おじいさん達に追いつかれてしまいました。熊は大ぜいの人の姿をみて逃げようとしましたが、やけどの足が痛かったのでしょう。動きがにぶく村の人の毒矢や鉄砲にとうとう、うたれてしまいました。
 一同はよろこんで、やかんをはいた大熊を、やっとのことでそりに積み上げて村へ帰ってきたということです。
熊

 この話は、明治初年にホニオイで本当にあった話だそうです。「根室のやかん熊」というと有名な話だったということです。長尾又六先生は「先住民族遺物」という小冊子を昭和七年に出されましたが、その最後に「薬罐熊の話」をのせました。
 長尾又六先生は明治二十九年札幌の北海道尋常師範学校を卒業して花咲尋常高等小学校に赴任されました。同三十五年北斗尋常小学校長(初代校長)に抜てきされます。明治二十九年から昭和七年までの三十七年間、根室市内の各学校に勤められました。根室地方の文化財にも注目され、中でも根室市花咲港にある車石の天然記念物指定に尽力されたことは有名です。昭和二十年の根室空襲のあとは三笠町に疎開され、同三十年月形町で亡くなられました。

 参考文献
 北海道開拓記念館監修、大久保一良・画 「北海道の民具」
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